大津地方裁判所 昭和56年(ワ)284号 判決
原告
西山英男
被告
北鋼産業株式会社
主文
一 被告は、原告に対し、金二三四八万九七三円及び内金二一四八万九七三円に対する昭和五五年一〇月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し金八一一五万六九〇〇円及び内金七六一五万六九〇〇円に対する昭和五五年一〇月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生など
(一) 原告は、左の交通事故により傷害を負つた。
発生時 昭和五五年一〇月二三日午後九時三〇分ころ
発生地 滋賀県滋賀郡志賀町木戸五〇〇番地先 国道一六一号線上
加害車 大型貨物自動車
車両番号 福井一一そ三九二四号
右運転者 訴外松山武雄
被害車 普通乗用自動車
車両番号 滋賀五六ち七〇五四号
右運転者 原告
(二) 事故の態様
交差点で信号待ちのため停車していた被害車に加害車が追突し、押出された被害車が前に停車していた軽乗用車に衝突したもの。
(三) 傷害の内容
原告は、右事故により頭部外傷Ⅱ型、左血胸、前頭後頭部裂傷、左第六、七肋骨々折、第二、三、骨四腰椎右横突起骨折、両手及前腕挫傷、骨盤骨折、恥骨離間、左手ベンネツト骨折、第五中手骨々折、プルチエル遠達性網膜障害(右)、黄斑部変性(右)、後遺障害七級認定の傷害を受けた。
(四) 治療経過
(1) 入院 蘇生会病院
昭和五五年一〇月二三日から同年一一月一二日まで
(2) 入院 吉川外科病院
昭和五五年一一月一二日から同五六年三月三一日まで
(3) 通院 京大附属病院(眼科)
昭和五五年一一月一七日から同五六年五月一四日まで(実日数一二日)
2 責任原因
被告は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により本件事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき責任がある。
3 損害
本件事故により生じた原告の損害は、総計金九二〇一万六九〇〇円である。
(一) 治療費関係
(1) 蘇生会病院 治療費(含文書代)金八万四〇〇円
(2) 京大附属病院 治療費 金二万一三〇〇円
(3) 寝台自動車 金二万円
(4) 入院雑費 一日七〇〇円 金一一万一三〇〇円
700円×159日=111,300円
(5) 近親者による付添費 一日三〇〇〇円 金四七万七〇〇〇円
3,000円×159日=477,000円
(二) 得べかりし利益
(1) 財産的損害について特記すべき事実
イ 原告は、マキノ電子工業株式会社の専務取締役として、代表取締役社長である父西山春男の下で、生産、営業、人事等の全般にわたつて会社業務に携わり、朝は七時半頃から近隣に居住する従業員の送迎に始まり、製品の納入、検査、材料の調達、人員の工程指導など実質的に同社の中心的存在として毎日午後九時過まで労務に関与していた。原告の昭和五五年三月から事故直前の九月までの給料は、税金等を控除して毎月金五六万一五二〇円であつた。
ロ 本件事故後京都大学医学部眼科において症状固定の認定がなされた昭和五六年五月一四日まで、全然業務につくことができず、収入はなかつた。
ハ 右眼科における後遺症診断と、吉川外科病院における後遺症診断(症状固定の診断が退院の翌日である昭和五六年四月一日になされている)によつて、自賠責後遺障害等級七級の認定がなされた。
(2) 休業補償 金三七九万九六一八円
休業日数 二〇三日
561,520円÷30×203日=3,799,618円
(3) 後遺障害(七級)による逸失利益 金七四三一万九二八二円
二九歳の就労可能年数は三八年
六〇歳まで三一年間 月五六万一五二〇円
六一歳から六七歳まで 月二八万七六〇円
561,520円×12×56/100×18,421=69,510,760円
280,760円×12×56/100(20,970-18,421)=4,809,216円
(三) 慰謝料
受傷にともなう慰謝料 金一五〇万円
後遺障害(七級)による慰謝料 金六六八万八〇〇〇円
(四) 弁護士費用 金五〇〇万円
4 損害の填補
原告は、被告から、金二五〇万円の弁済を受け、これを休業補償の一部に充当し、大成火災海上保険より自賠責保険の後遺障害に対する保険金として金八三六万円の弁済を受け、うち金六六八万八〇〇〇円を後遺障害による慰謝料に充当し、残額金一六七万二〇〇〇円を後遺障害による逸失利益の一部に充当した。
5 結び
よつて、原告は被告に対し、本件交通事故による損害賠償金として金八一一五万六九〇〇円及びうち金七六一五万六九〇〇円に対する不法行為の翌日である昭和五五年一〇月二四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項のうち、(三)および(四)の事実は不知、事故発生地地番を除いてその余の事実は認める。
2 同第2項の事実は認める。
3 同第3項のうち、自賠責後遺障害等級七級の認定がなされたことは認め、(三)の慰謝料額は争い、その余の事実は不知。
4 同第4項のうち、原告主張の金額がそれぞれ支払われたことは認めるが、弁済の充当を争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生および原告の傷害
1 請求原因第1項の(一)および(二)の事実は、事故発生地の地番を除いて、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件交通事故の発生地は、滋賀県滋賀郡志賀町木戸五〇〇番地先であることが認められる。
2 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二、三号証、成立に争いのない甲第六号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件交通事故によつて請求原因第1項(三)の傷害を負つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
3 前掲甲第二、第三、第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四、五号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、右受傷により昭和五五年一〇月二三日から同年一一月一一日まで蘇生会病院に入院したこと(入院日数二〇日)、同月一二日から同五六年三月三一日まで吉川外科病院に入院したこと(入院日数一四〇日)、同五五年一一月一七日から同五六年五月一四日まで京都大学医学部附属病院に通院したこと(通院期間一七九日、実治療日数一二日)が認められる。
二 責任原因
請求原因第2項の事実は、当事者間に争いがなく、したがつつて、被告は、本件交通事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき責任がある。
三 損害
1 病院関係 金一二万一七〇〇円
成立に争いのない甲第七号証によれば、原告は、蘇生会病院に室料差額、診断書料などとして金八万四〇〇円を、京都大学医学部附属病院に治療費として金二万一三〇〇円を、寝台自動車の会社に寝台車費用として二万円をそれぞれ支払つたことが認められる。
2 入院雑費 金九万六〇〇〇円
原告において入院雑費として一日少なくとも金六〇〇円を支出したものと認めるのが相当であり、原告の入院期間は総じて一六〇日であるから、入院雑費として金九万六〇〇〇円が必要であつたものとすべきである。
3 入院付添費 金一六万八〇〇〇円
前掲甲第二ないし第五号証によれば、原告が蘇生会病院入院中の二〇日間、吉川外科病院入院中の三六日間、それぞれ近親者による付添を受けたことが認められるところ、近親者の付添による損害としては一日金三〇〇〇円と認定するのが相当であるから、原告の近親者による付添費は、五六日間で合計金一六万八〇〇〇円となる。
4 得べかりし利益 金二二九五万五二七三円
(一) 成立に争いのない甲第三四号証ないし第三九号証、乙第五号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、同志社大学商学部を卒業後、実父が設立し代表取締役をしているマキノ電子工業株式会社に入社し、そのころの月給は一〇万円であつたが、同社が松下電器産業の協力工場であつたので、右松下で研修を受けたのち、昭和五一年ころマキノ電子工業の専務に就任し、本件事故当時、二八歳で、マキノ電子工業入社後六年数ケ月経過していたこと、原告の職務内容は、主として工場を任されマイクロバス運転による従業員の送迎、作業指示、納品業務、解折作業(不良品検査・手直し)であること、本件事故当時のマキノ電子工業の男子社員の平均給料は、税金等を控除した手取りで月額約一三万円であること、マキノ電子工業は、発行済株式総数が一万六〇〇〇株で、その九〇パーセントを西山親類関係で所有し、取締役も殆んど西山一族で占められていることが認められる。
右事実に加えて、昭和五二年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の年齢別平均給与額(含臨時給与)平均賃金(一・〇五九倍)は二八歳で月額二一万六九〇〇円であることを併せ考えれば、原告の主張する給与額をもつて原告の逸失利益の算定の基礎とするのは相当でなく、原告が専務取締役の肩書を有し、おそらく後継者として目されており、職務に精励していた事実を勘案しても、なお月額金三〇万円(一日一万円)をもつて逸失利益算定の基礎となる収入額とするのが相当であると認められる。
(二) 休業損害 金二〇三万円
前掲甲第二ないし第六号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故の翌日である昭和五五年一〇月二四日から症状固定日である昭和五六年五月一四日まですくなくとも合計二〇三日間の休業を余儀なくされたことが認められる。よつて、休業損害は金二〇三万円となる。
(三) 後遺症による逸失利益 金二〇九二万五二七三円
原告が、本件事故によつて、自動車損害賠償責任保険上、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表七級の認定を受けていることは、当事者間に争いはない。
そして、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故のため、視力が事故前裸眼左右〇・五、矯正一・二であつたのに、現在裸眼〇・一、矯正約〇・七となり、右目をもつて正面が見えにくく、自動車の運転ができず、また、左目だけでは目が痛くなり、解折作業も困難であるほか、左肩が痙攣を起す状態であることが認められる。したがつて、右事実によれば、七級に対応する労働能力喪失率五六パーセントが原告にも該当するものとすべきであり、原告の症状固定時の年齢が二九歳であることが明らかであるのでその回復も期待できないわけではなく、以後一五年間右率による労働能力を失つたものとみるのが相当であり、これに対するライプニツツ係数は一〇・三七九六である。
そうすると、原告が年間合計金三六〇万円の収入を得ることができたことは前認定のとおりであるから、右の額を基礎として、右労働能力喪失割合を乗じ、同額からライプニツツ方式により中間利息を控除して、右一五年間の逸失利益の症状固定時(本件事故時、両時点の差が一年以内であるので、特に考慮しない)における現価を求めると、その金額は金二〇九二万五二七三円となることが計数上明らかである。
5 慰謝料 金九〇〇万円
(一) 受傷による慰謝料 金一五〇万円
前記受傷の部位、程度、入通院期間等諸般の事情を考慮すれば、原告の前記傷害にともなう慰謝料は金一五〇万円とするのが相当である。
(二) 後遺症にともなう慰謝料 金七五〇万円
原告に七級の後遺障害が認められることなど以上認定の事実関係のもとでは後遺症にともなう慰謝料としては、金七五〇万円をもつて相当と認める。
以上1ないし5の損害合計は、金三二三四万九七三円となる。
6 損害の填補
原告が損害賠償の一部として、被告及び大成火災海上保険より合計金一〇八六万円の弁済を受けたことは、原告において自認するところである。
従つて、前記損害額から右金一〇八六万円を差し引くと、金二一四八万九七三円となる。
7 弁護士費用 金二〇〇万円
原告が訴訟代理人として弁護士に本件訴訟の追行を委任していることは本件記録上明らかであるところ、本件事案の性質、本件訴訟の経過及び認容額に鑑みると、被告に対して賠償を求め得る弁護士費用は金二〇〇万円が相当である。
そうすると、本件交通事故によつて生じた原告の損害合計は金二三四八万九七三円である。
四 よつて、原告の本訴請求のうち、被告に対し金二三四八万九七三円及び弁護士費用を除いた内金二一四八万九七三円に対する不法行為の翌日である昭和五五年一〇月二四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小北陽三)